ライフ・イズ・インタビュー『お笑い芸人を辞めて、ユーチューバーに。パチンコに毎月30万円つぎ込む男の行く末は?』

役者、バンドマン、アイドル……そんな夢と呼ばれる職業のひとつ、お笑い芸人として活動していた彼。
しかし、現実はそんなに甘くはなかった。
涙なしには語れない大好きだった彼女との別れ、数百万円の借金を背負いながらもなぜこの男はこんなにも笑顔なのだろうか。
理屈では説明できない波乱の人生を歩む、むめい団《山内康》のライフスタイルに迫る。

笑顔の裏に隠された波乱の人生

――本日は恵比寿でしゃぶしゃぶを食べながらのインタビューです!!実は俺、しゃぶしゃぶ食べるのが初めてなんですよ。どうせ食べるならと思って一番高いコース予約したんでいっぱい食べてください(笑)

山内:大食いならまかせて(笑)

――お笑い芸人を目指したきっかけってなんですか?

山内:勉強が大嫌いでとにかく進学したくなかったの。でも大金は欲しかった(笑)

――芸人を辞めた理由はなんですか?

山内:コンビを解散したときにちょうどアルバイトで働いていたコンビニから正社員の誘いが来たのと、一番の理由は彼女と結婚したかったから。いつまでも彼女のヒモでいるわけにはいかないと。

――芸人でヒモやってたんですか(笑)

山内:彼女そのとき水商売やってたから月収100万とかあったんだけど、それじゃ駄目なんですよ。女の子の旬を切り取って商売してるだけだから、いまは稼げてるけどずっと水商売やらせるわけにはいかない。だからコンビを解散したタイミングで芸人辞めて正社員として働こうと思った。

――最初ヒモの話されたからどうなるかと思ったんですけど、普通に良い話じゃないですか……。

山内:それでコンビニの店長という定職について、1年間くらいで3店舗任されるようになった。でもそのおかげで忙しすぎて、朝は始発で帰りは終電でっていう生活が365日休みなく続いた。

――えっじゃあ、労働基準法ブッチしてるじゃないですか!

山内:あーもうブッチブッチ。しかもそれで給料が手取り17万円しか貰えなかった。

――ベンチャー企業でもないのに頭おかしいでしょ!いったい契約書どうなってるんですか!?

山内:オーナーが言うには「レジに立ってる時間以外は労働じゃない」って理屈なのよ。だから俺が発注とか品出ししてる時間は給料に含まれない。だから、最低限の給料しか支払われない。ただ、これでも給料が上がった方なのよ。最初は手取り15万しか貰えなかったんだけど年に一回査定があって、そこで2万円上がった。恵方巻とか冬ギフトの売り上げがエリアで一番だったから

――そんだけ働いてたったの2万円しか上がらないんですか!東京って店舗数が多いからその中で一番の売上って相当スゴイことですよ!!

山内:異例の売り上げだったらしくて給料が2万円上がったらしい。ただフランチャイズだったから、昇給はオーナー次第で他の店舗のことはわからなかった。あとで他の店舗に聞いてみたら、「それだけ売り上げてた50万円は給料もらえるよ!」と言われた。

――うわーやっぱり。つまり、コンビニのアルバイト経験しかなかったせいで他の会社を知らなかったから自分がどれだけスゴイことをしているか気づけなかったわけですか。

山内:そうそう。だから自分が異例の売上げを出したって言われてもピンと来なかったんだけど、これだけ働いてたったの17万円じゃ満足してなかった。それじゃ月収100万稼いでる彼女を養っていくことなんてできないから。

――社長(フランチャイズのオーナー)がぼったくっていた訳ですね。

山内:しかもね、オーナーは考え方が古くて年功序列なんですよ。

――うわっ、最悪だ……。

山内:だから下がることはないし勤め続けていれば上がると思って耐えてたんだけど、冷静に考えて、いつまで働けば適正といわれている給料を貰えるようになるんだろうと思った。いまだって17万しかもらってないのに、いつになったら40万、50万の給料を貰えるようになるんだろうって考えたときに駄目だと思ったんだけど、社会って正社員は最低でも3年は働かなきゃ駄目って言われてるじゃないですか。

――よく言われてますよね。さすがにそんな会社は辞めちゃったほうが良いと思いますが。

山内:うん、それでとりあえず最低3年は我慢しようと思ったのよ。こんな酷い会社で3年も働けたら、これからどこに行ってもやっていけるだろうなと思って。でー、それを彼女に伝えて、わかったって言われて2年半頑張ったところでぶっ倒れたのよ。俺が。

――2年半もよく頑張ったよ……。

山内:そのまま過労でぶっ倒れて3日くらい入院してときに、ふと「あっこれ無理だわ」ってなった。

――心が折れた瞬間ですね。僕もカフェイン中毒でぶっ倒れたときに「この会社では死にたくねぇな」って思って退職しましたんで。

山内:そうそう、そんな感じ。しかも他の店舗の店長に聞いたら、1店舗しか受け持ってないのに給料40万円くらい貰ってる。

――ええっ!山内さん3店舗も管理してたのに17万円だったじゃないですか!しかもクソ忙しい東京で!!

山内:他の店長は1店舗しか持ってないし残業したら怒られるから定時で帰れるのに、俺は毎日死ぬほど働いてこんなに給料安いのっておかしいだろ、と。それと言い忘れてたけど残業代を無くすカラクリがあって、基本の労働時間が12時間なんですよ。

――基本の労働時間が12時間って長すぎでしょ。

山内:だから12時間以上働かないと残業代もつかないから給料がめっちゃ低い。完全に違法なんだよ。だけどオーナーの言い分としては契約書に判を押してるセーフらしい。

――いやいや、会社の契約書と日本の法律なら日本の法律の方が上ですからね。訴えたら100万は貰えるでしょ。

山内:100万どころじゃない。計算したら300万は取れた。本当は訴えることもできたんだけど手続きが凄く面倒くさくて、もういいやってなっちゃった。

――よっぽど身体的にも精神的にもやられてたんですね……。それだけ実力あるんですから自分でコンビニ経営する気とかなかったんですか?

山内:それが無理なんですよ。結局のところ諸経費を考えたら、1店舗出したとして立地が悪ければ詰んじゃう。すごくリスクが高い。それに、たとえ1店舗目が成功したとしても2店舗目で店長を雇わなきゃいけなくなる。そのとき、もしかしたらオーナーと同じブラックな考えになってしまうんじゃないかと思って。

――例えば、本部の正社員とかになる気はなかったんですか?

山内:実は本社の本部長と繋がりがあって、その本部長はギフトの打ち上げを総括してた。だからエリアで一番の売り上げを出してた俺も評価されて、本社の直営店で店長をやらないかと誘われた。でも断ったんだよね。

――えっ、なんでですか?

山内:もちろん給料は前よりもよくなるだろうけど最初はせいぜい20万ちょいだろうし、コンプライアンスは守られてるから休みもあるんだろうけど、もうコンビニ店長という仕事が嫌になっちゃって。例えば、深夜の寝てるときにLINEで従業員から連絡が入ったりするんですよ。はっきりいって24時間ずっと気が休まる時間がない。

――24時間営業の辛いところですね……。しかも3店舗抱えてるからどこかしら何かトラブルが発生すると。

山内:そうそうそう。クレーマーが来たとか釣銭が足りないとか、出勤するはずのバイトが来てないとか、もう辞めてから結構経つんだけど、いまだにスマホが鳴るのが恐くて。職業病だよね。寝ることすら許されないから。ポットのお湯でやけどしちゃった客とか雨で転んだ奴のために病院に連れて行ったり。

――そんな馬鹿な客のためにわざわざ病院に連れて行ってたんですか!時間外労働もここまできたか……。

山内:だから本部長から誘われたときに、店長はもう絶対にやりたくないと思って「その言葉を頂けただけで、いままで頑張ってきて報われた気がします。ありがとうございます、お気持ちだけ頂きます」と伝えて誘いを断った。で、そこで辞めることは決まってたんだけど最終日に本部の昇進試験があって、受かったんですよ。

――ええっ!!スゴイけどもったいねええ!!

山内:だからオーナー資格も持ってるんだけど、実はその昇進試験に2回落ちてたんだよね。試験が厳しくて。だけど最後に受かったときに試験官から「この合格は君が退職するから甘く採点したわけでもないし、はなむけとして贈るわけでもない。君がいなくなることは、この会社にとって5年、10年のスパンで非常に大きなマイナスになると思います。非常に残念です」と言われて、その言葉だけでおなかいっぱいです、と。

――なんか良い話になってますけど、元はといえば会社が適性の給料さえ支払っていればこんなことにはならなかったのでは。

山内:そうなのよ。ちゃんと給料もらえてたら会社は辞めてなかっただろうし、彼女とも別れていなかったはずだし、家庭も持っていた思う。逆にあのとき辞めてなかったら『むめい団』はやってなかったと思う。相方(渡辺ショーン翔)も劇団スカッシュさんを辞めてから時間ができたみたいで、そんな感じで色々な流れがあってむめい団が再結成した。

――むめい団の動画めっちゃ面白いですよね!絶対にこれから人気出るだろうなと思って動画の更新を楽しみにしていたのに、突然『むめい団休止』の発表が……。1か月くらいかなと思ったら、まさか1年以上更新が途絶えるとは。

山内:これには深い理由があってね。せめて制作費だけでも稼げてトントンなら、みんなのモチベーションも続いたんだろうけど。

――ファンとしてはむめい団が復活してくれることを願っているんですけど、望みは薄いですかね?

山内:もう無理じゃないかな。そもそも俺たちはそんなに仲良くなかったし、ビジネスライクな関係だった。結構ギリギリの信頼関係で活動していたのがむめい団だったんだけど、編集担当の相方と急に連絡が取れなくなっちゃってね。

――ええっ!休止の裏にはそんな事件があったんですか!

山内:何か事件に巻き込まれたかもしれないと心配になって、もう一人のメンバーと一緒に家まで行ったんだけど居留守だった。簡単に言うと職務放棄。そんな感じで、むめい団も休止せざるを得なくなって撮影してあった動画も出せなくなっちゃった。

――なるほど、そうなっちゃうと復活は難しそうですね……。

山内:期待はしない方がいいかな。

――そういえば彼女さんと別れたと言ってましたけど、結婚を意識して芸人を辞めて就職までするくらい大好きだったのに、なんで別れちゃったんですか?

山内:俺が仕事で倒れたときに「仕事辞めるわ」言ったら、彼女が「私が稼いでるから大丈夫だよ」って。俺もともと呑み屋とかやりたくて、バーとか経営したかった。そしたら彼女が「開店費用くらい私が稼ぐよ」って言ってくれた。

――最高の彼女じゃないですか!!

山内:それを聞いて「あーよかったなあ」と布団で寝てるときに、ふとそれじゃダメなんじゃないかと。このままじゃ駄目なんじゃない俺、って思って。約束もひとつも守らない俺みたいなクズ男に付き合わせてしまったら、彼女の人生めちゃくちゃになってしまうんじゃないか。そう思った。それって一番ダメなことだよね。人生って色々な選択肢があって、俺の人生が失敗するのは俺の選択ミスだけど、このままズルズルとヒモのままでいる選択肢を選び続けてしまったら、彼女の人生まで破滅させてしまうんじゃないかと思ったんだよね。

――でも、山内さんはブラック企業に搾取されていただけで実力はあった訳ですよ。山内さんに非はないじゃないですか。しかも開店資金を援助してくれる、つまりスポンサーになってあげるとまで言ってくれた彼女さんは山内さんのことをとても好いてくれていた訳じゃないですか。なのに別れようと思ったんですか?

山内:そう。だからこそなのよ。

――それは逆に彼女に対して失礼じゃないですか?

山内:大好きだったからこそなんだよ。ベランダで夜中タバコ吸い終わった後に、部屋に入って彼女の肩を叩いて、4年間付き合った彼女に「4年間くだらないことしてすいませんでしたああああ!!」って頭下げた。「このまま行くとたぶん俺はお前を幸せにできないし、それは一番いやだ。もしも付き合い続けたいと思ってくれていても、このままだとお前のためにならない」って言った。お前は可愛いし俺なんかよりも良い男といくらでも付き合える、と。

――それを伝えられて彼女さんは悲しかったんじゃないですか?

山内:もう、お互いにワンワン泣いてたよ。号泣しながら抱き合ってた。

――なんだかお互いに悲しい結末を迎えちゃった気がしますね……。なんか腑に落ちないなあ。

山内:みんなに同じこと言われる。だけど、俺としては彼女が金持ちとかと付き合って悠々自適に幸せに暮らしていってくれることを願ってる。これは責任を擦り付けるわけじゃないけど、もしもあのとき「早く違う会社を見つけなさいよ」って言われてたらまだ付き合ってたと思う。だけど、何もかもお膳立てされて俺が彼女の負担になっていたから、このままじゃいけないと思った。

――その時期は仕事で倒れて身体的にも精神的にも限界が来ていたのかもしれないですね。何もかもリセットしたくなってしまうというか、冷静に物事を考えられる状態じゃなかったのかもしれませんね……。

山内:俺はそのとき彼女に「俺はこれから絶対に結婚しないけど、あなたは結婚してください。幸せになってください。俺は一生あなたのことを思い続けています」ってボロボロ泣きながら言った覚えがある。

――なるほど。そんな波乱の人生を歩んできた山内さんは、いまどういった生活をしているんですか?

山内:会社を辞めてから他のコンビニチェーンの派遣社員を始めて、ある店舗に引き抜かれて、いまはバイトとして働いてる。

――時給とか安いんじゃないですか?

山内:いま週6で働いてるんだけど、多いときだと35万くらい稼いでる。

――3店舗掛け持ちしてた店長時代の倍じゃないですか!

山内:でも俺、150万借金抱えてるから。

――そんだけ稼いでれば返せるじゃないですか。

山内:返さない返さない。

――なんでですか!!

山内:だってパチンコができなくなるじゃないですか(笑)

――低貸し行けやー!!!(笑)

山内:だからー、みんなが俺のことをぶっ飛んでるって言うのはそこなのよ。

――確かにぶっ飛んでるわ……そしてめっちゃ面白いわ(笑)

山内:正直、俺は今後お金持ちになってどうのこうのしたいとか考えてない。

――借金も財産だと思ってるタイプでしょ?

山内:うん。死んじゃえば終わりだし(笑)

――いやでも、40万近く稼いでて家賃とか引いても25万くらい余るでしょ?

山内:余る余る。借金も3社に借りてるけど、毎月返す額は5万くらいかな。何が面白いかっていうと、当時いろんなお笑いのオーディションに行ってて初めてお金借りに行ったんだけど、そのときの貸付額が40万円だったのよ。あー俺の命の価値って40万なんだなって(笑)

――今後は何かしたいとか目標はあるんですか?

山内:今後の将来の展望、具体的に言ってもいい? ひとつも手を付けてないし漠然としすぎてるんだけど、芥川賞を取ってその印税だけで暮らしたい。

――小説を書いたことあるんですか?

山内:ない

――(二人で爆笑)

山内:小説を読むのが好きだから俺にも書けるんじゃないかと思ってて。

――スタンリーキューブリックと同じ考え方ですね(笑)

山内:印税で暮らしたい。

――でも芥川賞って、意外と人間のクズみたいな人が受賞すること多いイメージあるから山内さんも小説を書いたら本当に受賞しちゃうんじゃないかなって思わせる魅力がありますよね。僕なんかは将来のリスクとか考えちゃうんですけど、山内さんってリスクとか考えずに漠然と芥川賞取るわ―とか言っちゃえる訳じゃないですか。それってすごい才能だし羨やましいことなんですよね。

山内:借金も返さないし(笑)

――そこまでいったらもう何でもできちゃうと思うんですよ(笑)

山内:イメージ的にはドラえもんの「空を自由に飛びたいなー」みたいな感覚で生きてる。

――それじゃあ最後にまとめなんですけど、このサイトに来てくれた方に対してアドバイスがあればお願いします。

山内:新しい仕事のことを考えるのも大事なんだけど、まずは去り際を考えた方がいいんじゃないかなと思いますかね。どうせ将来のことなんかどんなに考えても上手くいくかなんてわからないし。それならせめて、いまできることをした方がいいと思いますね。気持ちよく会社を辞めること。それさえできれば、次につながるんじゃないですかね。

駅前で見つけたアイスもなかを買う山内さん

インタビューを終えたあと、山内さんはスロットを打ちに行くが、山内さんは「ジャグラーは設定1が一番出るんだよー」と言いながら自ら一番凹んでいる台に座っていた。そのあとの展開は説明するまでもないだろう……。


むめい団 ユーチューブ

取材・文/本木健真
撮影/Film Quartz